Fragile ( from the script "Fragile")
僕達はどうしてここまで来れたのだろう、とふと思う。
幼い頃、僕達はとても無知で力無く、父や母の庇護がなければ生きていけなかった。ようやくひとりで外に出ることが出来るようになっても、皆が待つ場所に帰り、ともに食事をしながらその日あったことを話し、母親が干してくれた日なたの匂いがする布団の中で眠りに就く。そうやって安心して一日を過ごすことが出来た。
ときには家族と喧嘩をした。良いことばかりではなく帰りたくないと思う日もあった。けれどあの頃の僕達には帰る家が必要で、その場所がなければ生きていくことが出来なかった。
いつの日からだろう。たぶん十代の半ばを迎えた頃から。僕達はその家を必要としなくなった。
他にもっと楽しい夜の過ごし方を見つけたからかもしれない。父や母の小言がうっとうしくなったからかもしれない。いつの間にか僕達には別の、家のようなものが出来、そこが帰るべき場所になった。
もう少しすれば、僕達は自分で家を作る。僕達の家族が帰るための場所。
そして彼らが、新しい家族が昔の僕と同じようにまだ無力なうちは、僕達の家に帰ってくる。けれど何かしらひとりで生きていくすべを見つけたとき、彼らはこの家を出て行くだろう。
僕達はどうやってここまで来れたのだろう。
それを思うたび、僕は幼い頃過ごした我が家を思い出す。母親は夕食の準備をし、その間、兄弟とテレビのチャンネル争いで喧嘩をした。非力な僕はいつも少しだけ力の強い兄に負け、そのたびに母親に泣きついていた。
僕達はどうしてここまで来れたのだろう。
あんなに無力だったのに―――――。
(2005年3月 souvenir 「Fragile」 序文に加筆のうえモノローグとして上演、7月再加筆)