「緋色の屋根」 〜 a Roof of Scarlet 〜
私達の家が新しかった頃。
屋根に引き詰められた西洋瓦は、厚く塗られたニスの光沢の下で鮮やな輝きを保っていた。
私達の家が新しかった頃。
壁のコンクリートにまだ馴染まないペンキは、陽の光を反射して少し眩しいくらいだった。
そこには父と母が居て、兄妹とともに六人で過ごした。
父は寡黙で口数が少なかったが、その優しさはいまでも変わらない。
母はとても明るく活動的で、たくさんの人に好かれ、たくさんの人を愛していた。
その頃の私達家族には、建てたばかりの家のようにきらきらと輝くものがあった。
母が死んで二十年近く経った。
その間に私達はむかし持っていた輝きを失っていった。
幸せや楽しさはその数と度合いを減らし、まとまっていたもの達は次第に崩れ、枯れてしまった花のようにぱらぱらと散っていった。
屋根の色も壁も時が経つに連れ色褪せ、ひび割れが目立つようになった。
屋根の色は緋色。
私達の母が好きだった色。
私は家に帰ると屋根を見上げ目をつぶり、まだ鮮やかだった頃の色を思い出す。
屋根の色は緋色。
私達の家が新しかった頃、私達の母が好きだった色―――――。
( 2005年7月 小さな作品展第2回 「緋色の屋根」 序文 )